研究概要 |
本研究の目的は,(1)日本語における特異的言語障害(specific language impairment : SLI)の言語学的特性を明らかにする,(2)その特性を欧米での研究成果で得られた言語データと比較分析して,この障害の多言語間で見られる言語学的特性の共通点と相違点を明らかにする,(3)これらの言語データに言語学的な考察を加えて,この障害の起こる脳内メカニズムについて検討する,の3点である. 上記の目的を達成するために,本研究期間中に主に次のことを実施した.【○!A】複合動詞産出課題を日本語話者のSLJ児と健常児を対象に実施して,その結果を欧米の先行研究の結果と比較分析しながら考察した,【○!B】格助詞産出課題を作成し,SLI児と健常児を対象に実施した.さらにその結果を欧米の先行研究の結果と比較分析しながら考察した,【○!C】かき混ぜ文を言語学的な焦点とした統語理解課題を作成し,SLJ児と健常児を対象に実施した.さらにその結果を欧米の先行研究の結果と比較分析しながら考察した,の3点である. これらの考察の結果,日本語を母国語とするSLI児は,表出面においては,使役接辞や受動接辞などの助動詞を使った複合動詞や主格「が」,対格「を」,与格「に」などの文法的な格助詞を正確に産出することに困難を示すことがわかった.複合動詞に関しては,日本語話者のSLI児は,普段,日常会話で頻繁に使っているものは正しく産出できるが,複合動詞の語形成規則を一般化して,あまり使い慣れていないものを産出するのには著しい困難を示した.格助詞に関しては,日本語話者のSLI児は,普段,使い慣れている基本語順文においては格助詞を比較的,正しく使うことができるが,語順の変化を伴うかき混ぜ文においては格助詞を正確に産出するのに困難を示した.受容面においては,全体的には,表出面より良好であるという結果が得られたが,個別のデータを詳細に分析すると,かなり個人差が見られた.統語理解にも障害を示すSLI児は,基本語順文よりも非基本語順文において理解度が低下した. これらの結果をふまえて,SLIの起きる脳内メカニズムについて3つの仮説の検証をした.
|