研究概要 |
15世紀の英国作家サートマス・マロリーの現存する二つの異本間の言語差異に関する研究は、私の永年の課題で、それを英文書としてまとめる時期が来たと感じている。しかしそのためにはまだ研究すべきかなりの言語現象が残っているので、それらの調査研究をするのが科研費による研究の目的の一つであった。 このような目的で、四編の論文を執筆した。論文の一つは、定冠詞と不定冠詞の異同現象である。この論文は英国出版の論文集に掲載された。第二は否定離説接続詞の研究である。この論文ではne, neither, nouther, nother, norなどの語に関し、両テキストでの用法の特徴を突き止め、論文に仕上げた。これは、スロバキアのコメニウス大学の論集に採用され、印刷された。第三は頭韻の問題である。キャクストン版の第五巻(アーサーのローマ戦役物語)は、写本と刊本で本文が異なり、キャクストンが、頭韻詩に依拠している写本の本文を、頭韻を嫌って全面的に書き直した、と云う説があるが、本当にキャクストンが頭韻を嫌ったか否かにつき、新しい資料でこの問題を論じた。この論文は印刷中で、2005年7月に韓国で出版されることになっている。これら三編はいずれも海外で出版され、海外の研究者と論文を交流するように努めた。他の一編は接頭辞の有無を論じた英文論文で、中部大学人文学部紀要に寄稿した。また中部大学ブックシリーズの1冊として『トマス・マロリーのアーサー王伝説-テキストと言語をめぐって』というタイトルのブックレットを日本語で出版した。この作業を通じ完成させようとしている英文による研究書への糸口を探ることができた。 これらの研究成果をあげるため、科研費が大きな役割を果たしたことを述べ、深く感謝申し上げる次第である。
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