研究概要 |
本研究においては,「相手を罵しったり,威嚇したりする言葉」「相手を辱める言葉」「差別用語」「性的差別を含む言葉」など,いわゆる「負」の価値観を含む「危ない日本語」の中から日常頻繁に使用される語彙を中心に,「言語それ自体に関する調査研究」を行うこととし,日本語,中国語,韓国語,タイ語,ドイツ語,フランス語の母語話者がどの程度の危ない言葉を意識の中に保有しているか,また,それらの語・表現がどのような意味分布を示しているかをまず調査することを目的に,語彙資料収集のための調査を国内および海外(韓国,台湾,香港,タイ,ドイツ,スイス)で実施した。その結果,日本語では延べ3551語,異なり語744語を収集した。また中国語(大連)で延べ735語,中国語(香港)で延べ968語,中国語(台湾)で延べ2929語,韓国語で延べ8963語,タイ語で延べ1373語,フランス語で延べ325語,ドイツ語で延べ1530語を収集し基礎データベースの構築を行った。データベースは,語彙の見出し語,その語彙により意味されるもの(connotation),被調査者の性別・年齢区分・出身国(地域)・出生地の各情報を組み立てる設計を行った。 収集したデータを考察し,意味の指示対象(denotation)により,01人・親族名・地名,02身体部位,03動物,04植物・菌類,05性的・暴力的行為,06汚物・廃棄物,07体型・形状,08心理状態・性向,09病気・障害,10生死,11聖霊,12指示詞,13擬音語・擬態語,14その他の14の項目に分類整理した。その結果,どの言語でも08心理状態・性向に分類される語彙が最も多いことが明らかになった。また日本語では10生死に関する語彙が2位と上位であるのに対し、他の言語では比較的下位であるなど言語によって特徴があることが明らかになった。 今後は意味分析の枠組みの再検討を行いながら,言語の個別的な記述研究をより深め,さらに詳細に社会言語学的な分析を行っていくこと,各言語の対照研究を進めていくことなどが課題である。
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