研究概要 |
本研究は,中世ヨーロッパの大学と当該期の社会を繋ぐ媒体として高位聖職者を設定し,両者の関係を解明しようとする試みである。 本研究では,1200年から1500年までの間に在職したルーアン大司教,ランス大司教,ブザンソン大司教,アミアン司教,アジャン司教,ロデス司教,アンジェ司教,マンド司教,セー司教(合計218人)を対象として,大学で学位を取得した者,学位は取得しなかったが大学就学の経験のある者(一括して「大学経験者」と呼ぶ)を洗い出し,かれらが大司教・司教に就任した時期,かれらが大学で取得した学位とその専攻分野,かれらが勉学先に選んだ大学を分析した。 分析の結果は以下の通りである。(1)218名のうち,「大学経験者」は97名で,その割合は44%である。しかしながら,年代によって,その割合は大きく変化する。つまり,13世紀には,28%であるが,その割合は14世紀以降,68%へと大きく増加し,とくに,1361年から1461年の間に就任した大司教・司教の80%が「大学経験者」である。この期間は,「大学経験者」・大司教の司教の黄金時代と言えよう。(2)学位取得者のなかでは,法学関係の学位取得者がもっとも多く(76%),その中でも市民法の学位取得者がもっとも多数である。神学学位取得者は10%にすぎない。(3)勉学先については,パリ大学が圧倒的に多く,ついで,オルレアン大学がつづき,フランス以外の大学で学んだ者はごく少ない。 結論としては,14世紀以降「大学経験者」が積極的に大司教・司教に登用されていること-このことは,13世紀後半以降,大学の高位聖職者養成機能が開始されたことを推測させる-,学位取得者のなかでは,法学関係学位取得者が圧倒的に多数であること,勉学先としては,パリ大学がもっとも優勢であったことである。
|