研究課題
基盤研究(C)
古典期アテナイにおける公的訴追の導入は、伝統的に前6世紀の法制定者ソロンに期せられてきた。検察にあたる公職者は存在せず、それゆえこのシステムの特徴は、任意の訴追者に告発を頼る点にある。しかしながら、任意の訴追者には、しばしば私的な動機のために公的な刑罰を濫用しようとしているのではないかとの疑いがかけられた。これは、アテナイ人の間に公私の2領域を峻別しようとする強い傾向があったことを示している。私的な復讐をさす言葉は「ティモーリア」であったが、この言葉は、公的な刑罰にも適用された。先行研究に反して、公的な訴追に適用される場合でも、この語は合理的で抽象的な、法的な刑罰へと完全に意味を転嫁させてはいないように思われる。主として、法廷弁論におけるこの語の用法について、とくにデモステネス『メディアス弾劾』を中心として分析することによって、以下の結論を得た。第1に、紀元前4世紀になってすら、公的な刑罰の根拠は、ソロンの時とかわらず、復讐という私的な感情がポリス共同体へと拡大したところに基礎づけられていた。第2に、「何人でも欲するもの」はその告発を正当化するに当たって2通りの方法を採ることができた。一つは、犯罪との個人的な関係を示すことであり、いま一つは、犯罪との公職上のかかわりを示すことであった。シュコファンテスとの批判を交わすためには後者のほうが安全であっただろう。第3に、デモステネスは共同体内部の被害者のための復讐としての公的訴追と、ポリスの政体にたいする犯罪とを区別している。古典期のアテナイにおける公私の峻別について論じる際には、このポリス共同体としての側面にも着目していくべきであろう。研究期間内に研究成果を整えたかたちで公刊することができなかったので、今後の課題としたい。
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奈良大学総合研究所所報 13
ページ: 106-116
Bulltin of Research Institute, Research Institute of Nara University No.13
奈良大学総合研究所所報 13(印刷中)
Material Culture, Mentality and Historical Identity in the Ancient World Understanding the Celts, Greeks, Romans and the Modern Europeans, Kyoto(Takashi Minamikawa(ed.))
ページ: 3-8
Material Culture, Mentality and Historical Identity in the Ancient World : Understanding the Celts, Greeks, Romans and the Modern Europeans, Kyoto(Takashi Minamikawa (ed.))
Classical Quarterly 53・2
ページ: 466-477
Classical Quarterly 53-2
ページ: 464-477