研究概要 |
本研究の目的は,溜池灌漑地域における水管理の実態を再検討することにある。特に,大規模水利事業導入後に,どのような水管理が実施されているのかに注目した。研究対象地域として,世界有数の溜池卓越地帯である兵庫県東播地域とインド・タミル・ナードゥ州を取り上げた。 1)日本には,210,769ものため池が全国に分布している(1997年)。兵庫県はその22.6%にあたる47,596のため池が存在する。特に,瀬戸内海沿岸の東播磨地域には比較的大規模なため池が多く分布している。この地域では受益面積7,650haの国営東播用水事業(1970年着工1993年完工)が展開した。この東播磨用水事業ならびに関連のほ場整備事業により,小規模なため池の統廃合や埋め立てが実施された。今日でもため池はダムからの用水の中間貯留施設として重要な役割を果たしている。近年では,景観保全や洪水防止など,用水機能以外の多目的機能が注目されている。また「ため池協議会」という非農家を取り込んだため池にかかわる住民組織が設立されるなど,新たな末端水利組織の動きが見られることを指摘した。 2)インドの中でも,南インドおよび東インドは比較的溜池灌漑の占める割合が高い。その中でもタミル・ナードゥ州の割合は22.9%(全国平均5.7%)と相対的に高い。タミル・ナードゥ州のため池の特徴は,受益面積が40ha未満の溜池が大部分(80.9%,2002年度)を占めていることであり,独立後から1970年代までは,小規模溜池を中心に溜池数は増加した。また大規模水利事業に伴う,新規ため池の築造も確認された。しかし溜池灌漑の面積は,ほぼ一貫して,減少している。その要因として,既存の溜池において,末端水利組織による管理が適切に行われていないために,土砂の堆積により貯水能力が著しく低下し,一部では利用が放棄されている。また灌漑の水源として井戸に転換していることを指摘した。
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