研究概要 |
研究成果は以下に大別できる。すなわち,国内の青果物流動体系に関するもの,対日青果物貿易を踏まえたアジアの輸出国の青果物流動に関するもの,および,両者を踏まえた国際比較に関するものである。 第1の点に関しては,野菜輸入の急増する1990年代以降の野菜生産出荷統計のデータの検討から,大産地と大消費地を結ぶ体系が機能する反面,中小の産地が後退し,全体としての農業生産が後退するというpolarization現象が認められた。また,青果物卸売市場調査報告のデータ分析からは,このような現象の進行する過程で大都市と地方都市,中小都市間での卸売市場格差が顕在化していることも明らかになった。 また,対日青果物貿易に関してはアジアの比重の拡大,特に量的な側面からは中国の,付加価値の側面からは韓国や東南アジア諸国の動向が特筆された。加えて,代表的な対日青果物輸出国としての中国と韓国の青果物卸売市場の検討からは,両国においてもわが国同様の国家的なスケールの青果物流通体系が機能していることが明らかになった。その際,わが国の大量の青果物輸入の背景として輸出国との経済的格差を指摘できるとともに,輸出国内の地域間格差も無視しえない事項であった。すなわち,国際間格差と同様に各国の地域間格差がこれらの地域全体の青果物流動の検討の上で重要である。 最後に,上記の2つの観点からの検討を踏まえ,日韓,および中国,インドをも加えたアジアの青果物流通の国際比較を行った。一方で広大な国土を持つ中国と他方で国土の小さな韓国の状況は,わが国の青果物流通と貿易を展望する上でも示唆に富むものである。輸入青果物の増加はわが国の国内青果物流動体系にも少なからぬ影響を与えているが,同時に輸出国を含めたスケールの中で,経済的なポジションの相対的に高い大消費地のみに特化するのではない,多様性を持った供給体系の模索が求められる。
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