本年度は、昨年度に引き続き、本研究にとって不可欠でありながら、当該研究機関において備えられていない既に活字化されている近世裁判関係の図書ならびに史料集を購入した。また、これと並行して、東北大学付属図書館、京都大学付属図書館、大阪商業大学等を中心に史料調査を実施し、各機関に所蔵されている近世都市仙台、京都、大坂等の「訴訟」のあり方を窺い知ることができる近世史料をできる限り広く渉猟した。 その後、それらの史料を筆写し、分析を試みた。その結果、江戸を考察の中心に据えながらも、京都、大坂、仙台等の近世都市においても江戸の場合と共通した「訴訟」の手続きやその特色を知ることができ、いわば近世都市全体に通底した「訴訟」のルールを導き出すことができたと思われる。そして、その具体的内容は、以下の通りである。 (1)司法と行政は未分離の状態であり、両者を総称して「訴訟」と称する場合があったこと、 (2)農村部と異なり、都市においては、行政的な「訴訟」が日常的に存在し、しかも極めて重要であると思われること、 (3)行政的な「訴訟」に対して、町奉行所が独自な手続きによって対応していたこと、 (4)従来の近世裁判研究は、行政的な「訴訟」へ射程を伸ばすことが欠落していたと思われること、 上記の分析を元として、近世の行政と「訴訟」に関する論文をできる限り早く執筆し、最終的には著書の刊行を計画している。
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