研究概要 |
社会福祉基礎構造改革の中で,利用者本位・患者本位の福祉・医療サービスへの転換が求められるようになったことを受けて,本研究では知的障害者の権利擁護の立場から,次の3点について検討した。 a.知的障害者の人権について 新しい成年後見制度における知的障害者の扱いについて検討した。従来きわめて曖昧であった判断能力の鑑定の制度が整えられ,きめ細かいサービスが可能になった点で制庚の充実が図られたと評価できる。しかし,今回の改革でも治療行為に対する同意・拒否の権利については明確な基準は示されなかった。そこで,英国における未成年者の権利について判例を分析した。英国では,未成年者にも治療行為に同意する権利は認められるものの,単独で治療を拒否する権利は認められない。未成年者に対するこのような権利の制限は主に教育的配慮からなされているが,知的障害のケースではアドヴォカシーの観点から同様な配慮が必要であろう。 b.福祉施設の情報開示について 福祉サービスの第三者評価事業によって,福祉施設の側からの情報開示が進んでいる。そこで知的障害者・児施設の情報開示の現状について検討した。現在までのところ,情報開示は保育所や老人介護サービスを中心に進んでいるだけで,知的障害者・児施設ではほとんど進展していないこが明らかになった。 c.知的障害者の人権意識の検討 社会福祉基礎構造改革の中で利用者本位・患者本位の福祉・医療サービスへの転換が求められる現在,福祉・医療従事者にも意識改革が必要である。利用者本位・患者本位とは自律尊重原理の確立を意味しているが,この原理はこれまでの福祉に支配的であった仁恵原理と葛藤を生むことがある。そこで,両者が対立する時のジレンマ判断課題を用いてパターナリスティックな干渉を正当化する信念の個人差を測定するための尺度の開発を試みた。
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