国際仲裁を中心として、国際的な民商事紛争をADRによって解決する場合の問題を、国際私法・国際民事訴訟法理論との整合性を念頭におきつつ、比較法的見地から、総合的に研究した。具体的には、仲裁手続準拠法や仲裁契約準拠法の決定について、「仲裁地」を連結点とする場合の問題点や仲裁地の解釈、実体判断の準拠法、知的財産紛争の解決に仲裁を利用する可能性、ADRによって得られた結果を国際的に執行する場合の問題点等について検討した。また、わが国において、新仲裁法のもとで国際仲裁の利用を活性化する一つの具体的方策として、法学部・法科大学院における仲裁等のADR教育の重要性を確認し、その内容や手法について検討するための実践的試みとして、内外の実務家や仲裁研究者を招聘して連続セミナーを開講し、受講生からのフィードバックを得た。さらに、わが国における国際仲裁の法的規整について、諸外国に向けた情報発信を行うため、英語による論文を発表した。 国際私法の領域においては、非国家法が国際取引紛争の解決基準として機能しうることを明らかにするとともに、近く成立が見込まれる改正国際私法の内容を批判的に検討し、とりわけ契約及び不法行為準拠法の決定について、新法が将来の国際取引実務に及ぼす影響について意見を述べた。国際民事手続法の領域においては、管轄合意・仲裁合意・準拠法選択合意という三種の合意の相互的関係・統一的規整の可能性について従来の研究を継続して英語による論文を公表した。また、財産所在地の国際裁判管轄に関するドイツ判例の展開をフォローし、日本の解釈論への影響について考察した。 これらの研究成果に基づき、わが国における国際仲裁や裁判による国際取引紛争の規整について、内外でのいくつかの場を借りて研究報告を行った。
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