研究概要 |
昨年度までに作成したデータベースを利用した実証研究を行った。 第1の実証研究では,特許データを用いて,世界の市場で導入された代表的な医薬品がいつ,どこで,誰によって開発され,どの市場に導入されたかのデータを利用した分析を行った。このとき,欧,米,日本の地理的相違,企業規模の相違,バイオテクノロジー企業,公的研究機関,大学の役割に注目し,生命科学研究における世界的な技術移転の様式を分析した。日本の医薬品企業を主体とする技術移転が量的に不足していること,日本については大学からの医薬品企業への技術移転が不足しているという点が,データによって確認された。 第2の研究は,生命科学研究の成果の代表である医薬品の価格設定が,企業の利益を左右し,それが研究開発の内容,方向,程度を左右するという関係を分析するために,まず,価格設定と医薬品需要の関係を検討した。そこでは代表的な医薬品200品目を対象にして,その需要の決定要因を検証した。この要因として,公的医療保険の薬価と,納入価格といった価格の変数,さらにはそれ以外の製品属性が需要に与える影響を定量的に把握した。さらに価格設定が,研究開発にどのように影響したかを検討した。 第3の研究は,生命科学研究において私的利益を追求する企業が存立可能が否かを,日本の現在の医薬品企業が,現在の形で存続可能かという問題設定によって検討した。ここでは,第1,第2の研究において推定した,製品・サービスの将来価格,需要量,研究開発費用に関する係数を用いたシミュレーションを行った。これにより生命科学研究に携わる代表的な企業の利益を予測し,その存立可能性を検討した。現在の日本の価格政策と産業組織を前提にするとき,研究に携わる企業の存立可能性は極めて小さい。現在の薬価規制のあり方,あるいは産業組織のあり方の修正が必要である。
|