研究概要 |
本研究は多国籍企業の戦略・活動に着目しながら,EUと日系多国籍企業を題材にして,グローバリゼーションとリージョナリズムの間の補完・緊張関係を明らかにすることに努めてきた. 本科研費の研究成果の一つは,世界政府無き世界経済において「フォーマルな制度」という「国際公共財」が十分供給されないという問題に直面して登場してきた地域主義的な機構としてEUをおさえ,経済学的視点からその意義と限界を明らかにした.その具体的成果が共著書『EU研究の新地平』の中の「EU,国民国家を超える制度の政治経済学」(第6章)である. 本科研費による研究のもう一つの大きな成果は,日系自動車・製薬多国籍企業の対EU直接投資を総括的に分析した著書,Japanese Multinational in Europeの出版であり,内外で高い評価を得た.本書は,国際ビジネス学会会長を務めたこともあるPeter Buckleyリーズ大学(英)教授が監修するNew Horizons in International Businessシリーズの1冊に含められ,日本国内では国際ビジネス研究学会賞(単行本の部)を受賞した. 学会発表,論文発表としては,以下のようなものが挙げられる.2005年11月には日本EU学会(九州大学)においてEUの拡大と日系企業の立地戦略に関する研究を報告し,その内容は同学会の査読を経て年報(2006年9月発行予定)に掲載されることが決まった.なお,日本EU学会からは学会報告と並んでEU研究の今後の方向性に関する見解を求められ,「EUの経済学,EUと経済学」を同学会ニュースレターに執筆した.更に,EUにおける多国籍企業の直接投資が,当該産業のみならず,関連産業の貿易に及ぼす影響を分析した論文を『経済研究(静岡大学)』に発表した. 上記のような個人研究と並んで,国際的な共同研究を進めたのも今年度の成果である.8・9月には日本学術振興会の外国人研究者招へい事業(短期)により静岡大学に招いたロンドン大学のOdile E.Janne博士とともに多国籍企業の立地戦略と産業クラスターに関する共同研究を行い,その成果の一部を共同で比較地域主義研究プロジェクト(東京大学社会科学研究所)第1回国際ワークショップにおいて発表した. 本科研費で上記のような研究を進める中で,従来の研究がEUの統合に対する多国籍企業の「進出」に注目が集まる一方で,「撤退」についての分析が未だ不十分なことが浮き彫りとなった.そこで本研究者は,地域経済統合と多国籍企業の「進出」と「撤退」を総合的に分析するため,平成18年度の科研費への申請を行い,更なる研究の深化を目指している.
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