研究概要 |
我々は,電力,電気通信,都市ガス等のネットワーク型公益事業における「産業融合」や「水平合併」を促進する要因を分析するために,上流部門・下流部門からなる公益事業の寡占モデルを作った.モデルは,上流部門で作られる生産物が下流部門の生産において生産要素として使われる典型的な垂直取引モデルであるが,(1)上流部門におけるインフラ建設では企業間で提携可能,(2)下流部門の生産物市場では同一提携内あるいは提携外に関わらず企業間競争がある,(3)自らインフラを建設せずとも接続によって上流部門の生産物を購入できる,の3点の特徴を持つ.この3つの特徴は,上流部門がネットワーク設備(送電設備やガスパイプライン等)であり,その共同建設・利用が許可されていることに基づいている. 以上のモデルにより,「企業が単独でインフラ建設を行った場合の(一生産物あたりの)平均建設費用よりも接続料金水準が低い場合,社会的に望ましいネットワーク提携が発生しない可能性」を明らかにした.これは,電気通信事業等における長期増分費用ルールに警鐘を促すものであり,公益事業のインフラ設備開放政策に重要な意味を与えるものである. さらに,インフラ設備開放政策と競争の進展についても理論分析を行った.この理論分析により,「インフラ設備開放政策が新インフラ建設や競争進展に貢献するのは,独占利潤が小さい,不確実性が小さい,および接続料金水準が大きいときである」ことを示した. 最後に,企業内の株主・経営者間のエージェンシー関係が,寡占市場構造に与える影響について予備的考察を行った.この考察により,企業内の情報の非対称性が寡占市場の競争進展と経済厚生にプラスの影響を与える可能性を指摘した.
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