研究課題
基盤研究(C)
1970年代末以降の中国では、留学生を中心に海外への移出者が急増し、200万人以上の中国新移民(本研究では、新華僑と称す)が生まれた。本研究は、老華僑との違いを意識しながら、新華僑の特徴および中国経済への影響を考察した。主な研究結果は次の通りである。(1)新華僑の多くは、大学や研究機構が集中する北京・上海などの大都市およびその周辺地域の出身で、老華僑の出身地構造と大きく異なる。また、新華僑は主に米・欧・日本などの先進諸国に分布しており、老華僑の移住先構造とも大きく違う。移住国との言語距離・物理距離、移住先の所得(教育・研究)水準・移民政策・労働市場規模などが新華僑の地域分布の重要な影響要因となっている。(2)近年、永住または短期滞在の形で帰国している新華僑の数が増加しつつある。その中に、高等教育・科学研究に従事するものが最も多いが、中国に進出している多国籍企業において経営管理や技術開発のリーダーとして活躍しているもの、および海外で身につけた先端技術を生かしてベンチャー企業を起こした起業家も急増している。老華僑と比べ、新華僑が特に中国の「知識産業」の発展に大きく貢献している。(3)帰国した新華僑の中に、アメリカ留学組がほぼどの分野においても最も活躍しているが、高等教育・科学研究の分野では、ドイツ・イギリスをはじめとするヨーロッパ留学組や日本留学組の活躍もかなり目立つ。一方、ICT関連企業の創業や多国籍企業の事業活動においては、アメリカ留学組の存在感は圧倒的に高い。(4)発展途上国からの頭脳流出による出身国の経済発展への直接な影響はマイナスな部分が多いが、中国の例から見ると、頭脳の帰国などによって大きなフィードバック効果も得られる。こうしたフィードバック効果は、まず、有力大学や多国籍企業が集中している少数の沿海地域に現れると見られる。以上の研究結果は、8章で構成される研究成果報告書の中にまとめられている。
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