研究概要 |
本研究は,日本の租税構造と政策展開を綿密に検討し,現在の租税構造への不満,国際競争の進展,これまでの政治的・政策的コミットメント,人口動態変化といった変数が作り出すインセンティヴと制約の枠組みの中で,どのような特定の政策選択が行われ,それはなぜかというその理由を理解することで,以下の点を明らかにした。 (1)OECD諸国の税収のマクロ統計分析によれば,急速なグローバリゼーションの進行にも拘わらず,先進資本主義国の総課税水準や歳入構成比に統計上有意な国際的傾向は存在しなかった。 (2)選挙制度を含む政治の制度的配置が,利害と政治的戦略に関する国民の認識を形成する。これらの制度はかなり安定的なので,グローバリゼーションの圧力にもかかわらず,それらは各国の税制を持続させ,永続させる傾向を持つ。 (3)社会的アクターが組織される方法とそれらと国家との政治的取引関係である社会契約が,課税の争点をめぐる自らの利害を彼らが最初にどのように認識するかに影響を及ぼす。そして,制度と選好は過去によって形成されるので,歴史的経路を辿ることが重要となる。これらのことは,彼らがすすんで支持しようとする租税政策の種類に影響を及ぼし,そのことが税制の各国間の偏差を作り出す。 (4)日本では,単記非委譲式中選挙区制度のもとで,雑多な利益集団の支持を得るために,自民党はそれらとの間に一連の社会契約を取り決めてきた。しかし,このことは,政治エリートが短期的なコストを課すことを妨げ,寛大な福祉国家建設と引き替えに逆進的な税負担の増大を受容する,という西欧的な租税政策を展開することを困難にした。 (5)日本的な制度的枠組みの中で重視された生産者重視の政策は,政府の再分配機能に対する国民の理解を矮小化させ,政府の役割に対する彼らの不信を定着させ,政府が福祉国家の財源として消費税の負担を引上げることを困難にした。
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