研究概要 |
21世紀におけるわが国の金融システムを根幹から改革するためには,銀行のモラルハザードを防ぐメカニズムを金融システムに内在させる必要がある.そのようなメカニズムを考える際の核となる市場規律について,理論的・実証的な考察を行うことを研究目的とした.銀行の持つ情報生産機能の重要性を踏まえて,この機能を資源配分が効率化される方向で活用していくために,どういう形で銀行を規律付けるかということが大きなテーマであり,そのような観点にたって市場による規律付けの効果について分析を進めてきた.特に最近の金融業のコングロマリット化を踏まえると,本研究の重要性は大きくなってきていると考えている.まず最初に理論的分析を行った.具体的には2期間モデルによる理論モデルの構築を行い,その後にモデルの拡張を行い,銀行のリスクが債券のプレミアムに波及するメカニズムに関する理論的な基礎研究を行った.理論分析の後で実際の劣後債の価格のデータを収集し,その動きに関する実証的な分析を行った.劣後債の価格データをもとに,スプレッドのデータを生成するとともに,銀行の財務データの収集も行い,理論モデルの実証的な検証を行った.その結果,我が国において,市場規律は十分に機能しているとの結論を得た.欧米では,銀行組織の複雑さが増加するとともに,市場による規律付けがより重要になってきているという認識が共有されている.我が国においても,そのような認識を得るための基礎となる研究になることを期待している.
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