研究概要 |
本研究の主たる目的は,(1)会計システムを1つの「制度」(institution)と見なしたうえで,近年の会計システム転換のプロセスを比較制度分析(comparative institutional analysis)の観点から分析すること,(2)進化経済学の諸成果に依拠しながら会計システムの変化や進歩を貫く固有の論理を明らかにすることの2つである。本研究では,EU諸国とりわけフランスにおける基準調和化と,政府・非営利組織の会計制度改革を具体的な研究素材として取り上げ,各領域における会計制度変化の実態と諸特徴を,比較制度分析の観点から明らかにした。 フランスにおいては,わが国と同様,成文法体系のもとでパブリック・セクターが主導する会計規制が展開されてきた。しかし,FASB/IASB主導の基準調和化が進展するなかで,フランスでは,会計条文の脱法令化と,連結財務諸表をベースとした会計の情報提供機能の強化が図られつつある。その実態を,経済システムとコーポレート・ガバナンスの変化(長期安定志向から市場規律重視への変化)に着目しながら,日本の制度変化と比較する形で検討した。その研究成果は,裏面に記載の雑誌論文等として発表したほか,2004年5月にパリ・ドフィーヌ大学で開催されたワークショップでも報告し,当該テーマについてフランス人研究者と意見交換を行った。 現在わが国では,政府・非営利組織(公益法人)の領域で,効率的な組織設計をめざした大掛かりな制度改革が進められている。そして当該制度改革の重要な一環として会計制度改革が,取り組まれている。その基本的な展開方向の設定にあたっては,アメリカでの制度改革が参考にされている。政府・非営利組織における会計の目的は何か,その目的の達成に資する会計のシステムはどのようなものかが,主要な論点となっている。会計理論の観点から見れば,意思決定有用性アプローチをどのようにすれば政府・非営利組織会計に適用できるかが,当該制度改革では問われているといえる。以上の論点に焦点を合わせつつ,アメリカの先行事例からわが国が学び取るべき教訓を,関連文献の解析を通じて明らかにした。
|