研究概要 |
介護保険制度の導入や社会福祉基礎構造改革の進展により,福祉サービスの利用は,措置から契約に基づく制度へと移行している.契約に基づくサービスの利用制度のもとで,社会福祉施設はサービス業であるという位置づけがより明確となってきた.事故防止対策を中心とした福祉サービスにおけるリスクマネジメント体制の確立が急務となっている. 福祉施設で起こった事故は,(1)介護事故(事故が利用者側に向かって出たもの),(2)労働災害(事故が従業員側に向かって出たもの)に分類できる.また,1つの事故で,利用者および従業員の双方が被災する場合も考えられる.福祉施設は,利用者にとっては生活の場であり,従業員にとっては労働の場である. したがって,福祉施設の事故の予防のためには,利用者側の「福祉サービスのリスクマネジメント」に加えて,従業員側の「労働安全衛生のリスクマネジメント」が重要である. 本研究は,これら2つのリスクマネジメントの統合を目指すことを目的として実施・考察した. 一連の研究結果から,福祉施設の事故の予防のためには,以下のことが重要であることを明らかにした. (1)利用者側の「福祉サービスのリスクマネジメント」の前提として,従業員側の「労働安全衛生のリスクマネジメント」が必要である. (2)福祉サービスのリスクマネジメントのための組織・システムを新たに考え出すより,すでに労働安全衛生法等で確立している「労働安全衛生組織」を活用して,社会福祉施設の中で,「労働安全衛生マネジメントシステム」を構築することが有効である--すでにある「産業保健推進センター」等の社会資源,「衛生管理者」,「労働安全衛生コンサルタント」等の人材資源を活用できる. (3)「労働安全衛生マネジメントシステム」の中に,施設の重要な構成員である「利用者」に対する配慮を積極的に組み込むことによって,「福祉サービスのリスクマネジメント」も満足させることができる.
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