研究概要 |
本年度は、これまで行ってきた複数の抑制機能について比較検討し、考えられることをまとめた。まず第1にいえることは、高齢者の抑制機能は、一様に衰退するわけではないという点であった。加齢の影響をうけやすい抑制機能と影響をうけにくい抑制機能が存在するものと思われた(McDowd, 1997)。例えばidentity-basedの抑制機能のうち、一度活性化した反応の抑制や、location-basedの抑制機能うち、刺激から誘発される反応の抑制については、加齢の影響が顕著であることが推察された。 次に高齢者では抑制機能が一度機能すると、その影響が強く残る可能性が指摘できた。例えば、go/no-go課題において,高齢者では,反応の抑制が必要な条件で,別の刺激への反応の始動の遅れが、若年成人に比べ顕著になった。また、復帰抑制課題において、高齢者ではその効果が若年成人に比べ、強く長く残存しやすいことが分かった。これらの結果から、高齢者では、一度抑制機能が活性化すると、その機能を解放(disengagement)することが困難になるのではないかと思われた。 第3に、若年成人では、意図的な注意を喚起することで、抑制機能を強め、衝動的な反応を抑える傾向が確認されたが、高齢者では、このような効果が期待できない場合のあることが分かった。若年成人では、刺激に対して意図的な注意を喚起する条件を負荷することで、反応時間が遅くなる一方、誤反応率も低下した。しかし、高齢者では反応時間は遅くなるものの、誤反応率も上昇した。このことから、高齢者では、単に意図的な注意を喚起するだけでは、抑制機能を強めることが困難になっていることが推察された。
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