研究概要 |
取扱説明書の作り手は手順文の構造を強調するために,手順文と手順文の間に余白や見出しなどの「合図」を入れて手順文の上位構造性を強調するが,これは標識化と呼ばれる。これまで,高齢者の読解に及ぼす標識化の効果は十分に検討されてはいないが,先行研究から,標識化効果は,読解過程における符号化時の体制化方略を質の高いものへと変更させ,この媒介により,高齢者の読解・記億を促すことが示唆される(方略変更仮説)。これを踏まえると,体制化方略の変更を促す標識化の様式を採用することで,効率的に高齢者の読解・記憶を支援でき,かつ,高齢者の手順文の読解・記憶に及ぼす標識化の効果に関する認知加齢メカニズムの解明につながると考えることができる。 そこで,本研究では,高齢者の手順文記億に及ぼす標識化効果に関する認知加齢メカニズムの解明を進めるために,標識の明示性に着目する。実際の標識化を実現する様式は多彩であるが,それらの挿入の程度によって標識の明示性の程度を操作することは可能である(非明示条件,低明示条件,高明示条件)。本研究では,上位構造を強調する標識の明示性の違いが高齢者の手順文記憶における体制化方略の変更に及ぼす効果のメカニズムを方略変更仮説に基づき検討することを目的とした。つまり,標識の明示性を高めることにより質の高い体制化方略の使用へと方略の変更がより促され,こうした媒介が読解・記憶レベルを向上させると仮説し,この仮説を検討することが目的であった。 この目的を遂行するために,研究1では,非明示条件と低明示条件について比較検討した。研究2では,非明示条件と高明示条件について比較検討した。二つの研究を踏まえて,最後に,研究3として,両者の知見を統合して,標識の明示性の違いが高齢者の手順文記憶に及ぼす効果に関する認知加齢メカニズムを共分散構造分析により検討した。
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