研究概要 |
私は2003年〜2004年にかけてカリフォルニア州ロスアンゼルス郡,サンフランシスコ郡およびアラミーダ郡で児童虐待ケースの法廷傍聴および関係者への面接調査を行った。米国においては,虐待発覚後の対応に関して二つの対立する立場がある。一つは「家族維持派」と言われる人たちの立場である。彼らは,子どもにとって最良の生育環境は生物学的親と営む家族の中にあると考え,虐待が起きてしまった場合でも,できるかぎり家族を維持する方向で努力することを良しとする。したがって親子分離後も親族ケアが親子にとっての最善の選択肢であると考える。他方,家族維持派の主張に強く反対する人たちは,親子分離せざるをえなかったような家族は,短期間の介入によって十分な変化を来すものではなく,変化が起こりうるとしても長期間を要し,その間,子どもを宙ぶらりん状態に置くことのネガティヴな影響を重視する。親族ケアに対しても懐疑的であり,できるだけ早く養子縁組によって恒久的な家族を提供していくことが子どもの最善の利益に合致すると考える。児童福祉法や児童福祉・裁判実務には両視点のせめぎ合いが色濃く反映されている。米国における家族再統合の成功率は大体20〜40%であり,家族再統合後の虐待再発も多いと言われる。しかしサービスを提供する家族は一般に,貧困や虐待等の問題を世代を越えて抱えており,重篤な機能障害や病理を抱えていることも多い。この点を考慮するなら,一年余のサービス提供によってこれだけの成果があるということは評価に値する。 日本においては,東京都児童相談所が全国に先駆けて親子再統合に向けての親子合同治療,母親グループ,父親グループ,子どもグループを試みている。しかし参加は米国のような司法による強制ではないために,治療参加率は,一時保護されたケースの約6%ぐらいと非常に低いのが現状である。この辺のシステム作りは今後の課題であろう。
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