研究概要 |
申請者たちの研究グループがこれまでに蓄積してきた記憶リハビリテーションに関する実証的データの中から,特に予測通りの効果が得られなかった条件や事例に注目し,その原因を理論的に究明した。さらに,そうした不一致を克服するための新たな手続きを提唱し,その効果を実証的に検討した。 15年度は,誤り排除-努力喚起型と位置づけられ,記憶障害者にとって最適な手続きであると予測された手がかり消失法が,これまでのリハビリテーションの実践においてなぜ有効ではなかったのかを検討した。訓練データを分析した結果,手がかり消失法において,誤反応は低減していたものの,排除には至っていなかったことが判明した。そこで誤反応を排除するために新たに,知覚的マスキング手がかりを開発した。健忘症患者を対象に記憶訓練を実施した結果,改訂版手がかり消失法による誤り排除-努力喚起型学習が最適な訓練手続きであることが裏づけられた。 16年度は,軽度アルツハイマー病患者を対象とし,誤り次元(排除-喚起)と符号化次元(知覚的-概念的)を交差させ,全部で4種類の記憶訓練を実施した。実験の結果,誤り排除の方が誤り喚起よりも,さらに,概念的符号化の方が知覚的符号化よりも,後の再生成績は優れていた。認知症患者にとって,誤り排除-概念的学習が最も優れた訓練効果をもたらすことを証明した。 17年度は,残存する潜在記憶に働きかける努力喚起型学習として,被験者実演効果に着目し,コルサコフ健忘症患者と健常統制群を対象に,行為の生成と実演を求める課題を新たに開発し,その効果を検証した。実験の結果,行為の実演だけでなくその生成を被験者に課した場合,環境的支援の乏しい自由再生検査で実演と生成は加算的促進効果をもたらした。記憶障害者へのリハビリテーションの手法として,行為記憶への働きかけが有効であることを実証した。
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