研究概要 |
報告書は,下記の第1部乱数生成課題(RNG)研究と第2部発話に関する生理心理学研究の2部構成(論文・口頭発表・ポスター発表による総発表数19編と発表予定1編)から成る。11.には主要雑誌論文を示した。 第1部は,RNG課題を仲介してヒューマンエラー研究とワーキングメモリ・モデルの対応関係を検討することに焦点を当てている。RNG課題に特化されたワーキングメモリ・モデルである「軸モデル」は,RNG課題から個人の情報処理特性を評価する手法であるが、本研究での連続分析法の開発によりその時々で変化するドライビングなどの主作業の情報処理負荷を評価できるようになった。さらにヒューマンエラーに関する詳細な考察を行なうために、新しく収集した368データを基に1-9セットRNG課題の「軸モデル」の標準化を行なった。そして、RNG課題に性差が認められる評価指標があったことから「心の理論」との関連に踏み込んでヒューマンエラーとの関連を検討した。その結果、ヒューマンエラーを「外界を個人内の世界として内在化させる役割を持つワーキングメモリ機能の低下」と捉えることが可能である。この考え方ではヒューマンエラーは「外界の変化に対応できる程度まで内的世界が拡張されていない」,あるいは,「内的世界の拡張に過去の蓄積であるステレオタイプなスキーマが利用され、外界を適切に反映するように更新されていない」ために生じていると解釈することが可能である。 「軸モデル」は、この外界世界の内面化には外部情報を更新する実行系機能が必要であることを明らかにしているが、興味深いことにその機能は,音声,発話、内言に代表されるような系列情報であることが明らかになった。発話行動が外界の内面化に大きく関連していることから、第2部ではこの発話(スピーチ)に関する心臓血管系反応に関する研究が多く実施された。 最後に研究期間を8ヶ月延長して行なわれた光トポグラフィ(NIRS)研究では、2つの乱数生成方略が左右の異なる前頭葉領域の活性化に関連した実行系機能であることを報告した。 本研究はRNG課題を用い、最近のワーキングメモリ・モデル(Baddeley,2000)を理論的枠組みとするヒューマンエラー研究を検討した。
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