研究概要 |
本プロジェクトでは,形,色,および形と色の知覚について多面的に研究を行い,知覚現象と美的判断,およびそれらの関係性について総合的に検証した. まず,Jastorw図形について錯視量と美的判断との関係を検討したところ,Noguchi & Rentschler(1999)同様の結果を得た.また,Jastorw図形の刺激構造を変化させることで,美的判断が刺激の個々の特性ではなく知覚構造によって変化することを明らかにした.また,多色配色の調和,形と色の調和的関係,および配置型と配色の美的選好についての検討から,構成要素の評価の加算ではなく,構成要素の関係性が組み合わせ全体の評価を規定することを見出した.さらに,色や明るさの知覚・美的選好について,観察様式や専門教育・文化など認知的要因の関与を実験的に検討し,それら認知的要因の影響と知覚特性によるものとを実験的に分離した. 知覚現象については,静止事態だけではなく,時間の経過と共に変化するパターンを用いて運動印象に関する検討を行った,結果として,運動事態においてもゲシュタルト特性を有すること,さらにそれらはこれまでの知覚体制化法則が扱ってきたことと同様,現象的側面からの説明が必要不可欠であることを示した. 感覚間相互作用の研究では,これまで空間知覚に関しては視覚が,時間知覚に関しては聴覚が他の感覚よりも優位であると言われてきたが,必ずしもその通りでないことを明らかとした.このことから色と形の相互作用においても,多感覚知覚に類似したシステムが存在するという作業仮説を立てることによって,今後の研究が促進されることが期待できる. 以上の諸研究より,視知覚における美的評価が,個々の刺激特性ではなく知覚された現象そのもの,知覚構造に規定されることが明らかとなった.これはこれまで別々に議論されてきた実験現象学と実験美学とを統合して扱うことの有効性を示唆するものである.
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