研究概要 |
1990年代から現在に連なる教育改革政策の歴史的系譜として,1970年代の中教審46答と1980年代の臨教審を位置づけ,それらとの比較検討を通じて現在の改革政策の歴史的特質を明らかにした。70年代,80年代,90年代の三つの時期それぞれにおいて,内容的に類似した教育政策転換が試みられてきたが,それが現実化したのは90年代後半以降である。なぜ似通った改革が,前の二つの時期には挫折し,90年代になってから実現されているのか。この問いに答えるために独自の分析枠組みを設定して検証を行った(政策内容/政策形式との区別論および外部/内部的な特性の区別論など)。 三つの教育改革は政策内容上は類似していたが、政策形式(特に政策形成形式)は異なっていた。すなわち、70年代では教育改革は中教審という教育界内部で専ら議論され、内閣などの政治的「外部」から独立的であったのに対し、90年代になると内閣の統合力の強化と相まって、教育改革がより大きな改革文脈の一環に組み込まれることとなった。これが政策形成形式の「外部」的な特性の変化である。これに加えて、90年代後半期にはこうした外部的入力を文部省内へと媒介する組織内的な変化も起きていた。本研究はこの点を、省内における官房と原局との勢力関係の変化として明らかにした。文部省では従来から、初等中等教育局などの学校制度事業を所管する縦割り部局が政策形成に対して大きな影響力をもっていた。これに対して、対外折衝と省内調整を担当する官房部門はあまり力を持っていなかった。それが80〜90年代にかけて、機構面と人事運用面との両側面で官房の省内地位が高まったのである。これが政策形式の「内部」的性格の変化である。これら内外双方での政策形式が変化したことによって、90年代改革が実現される条件がそろったということができる。
|