研究概要 |
本研究は、石川県を中心とする北陸地方(旧加賀藩)において、明治期の旧制中学校や高等女学校など名門中等教育機関を利用した階層の社会的性格を分析したものある。方法論として、『学籍簿』や各種名簿類に着目し、個別プロフィールを包括的に調査分析することで各階層間の教育観や文化的エートス、地方-全国を結ぶネットワークの様相の特徴を把握しようした。データベース化した名簿類は、金沢一中、第一高女,加越能郷友会会員名簿であり、次の点を明らかにした。 (1)武士の近代社会への転身の問題、すなわち「伝統的社会からの離陸(テイク・オフ)」(ロストウ『経済成長の諸段階』)を主導したとされる「郡県の武士」(園田)の具体的な存在形態を、旧藩時代の細かい身分区分や「職分」に遡って明らかにし、出身背景に特徴的な文化的エートスを析出した。(2)士族/平民間の格差問題を、名門中学校の内部過程や卒業後の進路選好における相互の格差が解消されていく時期は一体いつ頃なのか、さらに、卒業後の到達地位や地理的移動の選好の相違がどの程度発生しているのか、という観点から検討を試みた。(3)「名士」層の"統合"の問題を検討した。第一に、「地方名士」各層間の女子教育観の相違について、女学生の中途退学の理由とその背景を探ることで析出した。第二に、「出郷名士」を中心とする親睦団体であった「加越能郷友会」を取り上げ、名士たちの社会的ネットワークの輪郭を明らかにしつつ、郷友会の団結への志向とこれとは裏腹の強い不満の言の意味するところについて、その心理的・社会的背景を探った。維新後の近代社会にあっていち早く成功の僥倖を手にした先達と、学歴社会の制度化以後の世代との葛藤が明らかになった。
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