研究概要 |
ニュージーランドでは,1990年代にナショナル・カリキュラムが提示され,すべての教科に共通するスキルが設定され,各教科はそのスキルの目標を達成できるようにシラバスが組まれるようになった。スキルには,コミュニケーション,問題解決など8項目が示され,それぞれの教科でどの内容がそのスキルと関連し,レベルごとのスキルの到達目標が示されている。社会科では,このスキルと,探究,価値の抽出,社会的意思決定といった3つのプロセスがクロスしてシラバスが組まれている。これらスキルとプロセスが,社会組織,文化と遺産,場所と環境,時間・伝承・変化,資源と経済活動といった学習内容の柱と関わっている。他方,日本では「見方・考え方」が社会科においても重視されきているが,本研究で論考したように,歴史,地理,公民でそれぞれ独自の「見方・考え方」を提示し,社会科として統合することが難しくなっている。さらに,日本では羅列的に「見方・考え方」が示されており,「見方・考え方」の育成を,社会科の目標とするならば,ニュージーランドのように段階的に到達目標を設定し,各学年ないしはレベルごとに力をアップさせていく方策をとる必要があることを検証した。学習内容に関しても,知識理解の定着だけでなく,変化する現代世界をどう見通して生きていくかといった価値判断・意思決定を促す内容を採用することで,効果的な「見方・考え方」を育成する授業が展開できる。しかし一方で,ニュージーランドでも僻地では,基礎を強調するため,地域の状況を反映した教育がしにくいという日本の過疎地域の教育と共通した課題をかかえているがことが明らかになった。中央で優れた「見方・考え方」が示されても,全国には浸透しにくい背景があることを,国境をこえて共通していることがあきらかにされた。
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