研究概要 |
本研究の目的は、視覚美術に対する美的感受性の発達の特徴の解明を進め、さらにその発達的知見から学習の適時性に注目して、美術鑑賞におけるさまざまなスキルを習得する教育ソフトウェアを開発し、その有用性と課題を検証することである。具体的な課題は,鑑賞レパートリーを定義づけ,学年変化に伴う多様な使い方を明確にし、さらにレパートリーの観点を援用して美術鑑賞文の分析方法を開発して,その分析方法に基づいて,「アートリポーター」で作成された鑑賞文を分析し,鑑賞スキル習得の効果を検討することである。その結果、次のような成果を得た。 まず、鑑賞レパートリーの最小単位としての鑑賞スキルを,作品の要素(主題,表現性,造形要素,スタイル)と鑑賞行為(連想,観察,感想,分析,解釈,判断)の二要因の組み合わせから規定した。頻出するレパートリーは、小学高学年から高校にかけてよく使われる表現性の感想レパートリーと,中学から大学にかけてよく使われる造形要素の分析レパートリーであることを明らかにした。また、学年の変化に伴い、作品の要素では主題から表現性や造形要素へ移行し,行為の要素では観察から感想へ,そして分析へと鑑賞レパートリーの使い方が移行することを明らかにした。 また,レパートリーの枠組みから分析基準を作成し,それに基づく方法の信頼性と妥当性を検証した。そして,中学生から大学院生に行った調査から,「アートリポーター」による鑑賞文と,それを使う前に作成した自由鑑賞文を比較し,それぞれの特徴について鑑賞スキルの出現率から量的に明確化した。その結果,分析方法の信頼性と妥当性が確認され,さらに,「アートリポーター」の効果として,鑑賞スキルの多様化とレベルの深化を促す点が示唆された。
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