研究概要 |
【目的】発達性音韻障害の発生機序を探り,治療への示唆を得るため,日本語母語話者の/s/と/∫/の知覚における音響的手がかりへの重み付けを検討した. 【方法】協力者は,大学生ら成人42名(20-36歳)と発達性音韻障児2名(9-10歳)であった.聴取課題は,対象子音を/s/と/∫/,後続母音を/a/とした.子音部は,成人男性の発話/sa/と/∫a/から切り出した子音の波形部分に重み付き加算を行い,/∫/から/s/にかけて9段階に連続的に変化する連続体を作成した.母音部は,音声合成ソフト(Klatt,1984)を用い,先行子音が/∫/の場合のフォルマント遷移から先行子音が/s/の場合のフォルマント遷移にかけて9段階に連続的に変化する連続体を合成した.子音部と母音部の連続体を組合せた刺激音を協力者に提示し,/sa/か/∫a/に同定させた. 【結果】多数の成人は比較的フォルマント遷移の変化によらず摩擦の中心周波数の変化に伴って同定し,フォルマント遷移よりも摩擦の中心周波数に重み付けをする傾向を示した.一方,少数の成人は摩擦の中心周波数だけでなくのフォルマント遷移変化に伴って反応する傾向を示し,多数の成人に比べて摩擦のスペクトル形状への重み付けが明らかでなかった.発達性音韻障害児は,比較的摩擦のスペクトル形状よりもフォルマント遷移に重み付けをし,少数の成人と類似した傾向を示した. 【考察及び結論】多数の成人は英語母語話者を対象とした研究結果と類似した結果と考えられたが,少数の成人は英語母語話者を対象とした研究の結果とは必ずしも一致せず(Nittrouer & Miller,1997b),成人の反応は一様でないことが推測された.発達性音韻障害児は,英語母語話者を対象とした研究における3-4歳児の結果と類似していると考えられた(Nittrouer & Miller,1997b).即ち,発達性音韻障害児は10歳前後においても重み付けの変化が明らかには認められず,健常児とは異なる語音知覚能力の発達経過を示す可能性が示唆された.そしてその一因として音韻情報処理の問題が推測された.
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