研究概要 |
本研究の目的は,ミラー対称性を持つ3次元カラビーヤウ(CYと略す)多様体の数論的性質を調べ,数論と物理との関係性を探ろうとするものであった。考察の対象は,有限体や代数体上定義されたCY多様体であり,中でも,加重射影空間の中で定義されるCY多様体やK3曲面によるファイブレーションを持ったCY多様体を詳しく調べた。研究計画全体を通して,Queen's大学(カナダ・オンタリオ州)の由井典子教授の協力を得た。 本研究の申請時に設定した課題に対しては,L関数の特殊値に関する一部を除いて十分な研究成果を得ることができた。得られた成果については,4度の研究発表を行い,1編の発表論文と3編のプレプリントの形にまとめた。具体的な内容は次のとおりである。 1.3次元加重Delsarte型多様体から作られる3次元CY多様体と,K3曲面によるファイブレーションを持つCY多様体を考察し,それらのゼータ関数とL関数,及びコホモロジー群を精密に計算した。 2.CY多様体の形式群の高さを計算し,高さに関する既存の評価式を改良した。さらに,未知であった大きな高さを持つ3次元CY多様体を多数見つけた。 3.ゼータ関数と形式群に対してミラー対称性が及ぼす影響を考察した結果,形式群はミラー対称性の影響を受けないが,ゼータ関数とその特殊値は強い影響を受けることがわかった。このことを形式群の高さの計算とゼータ関数の特徴づけに応用した。また,ここでの結果が数論と物理の重要な関係性の一面を示すものである。 4.4次元多様体のゼータ関数とL関数を計算し,3次元CY多様体の場合と比較した。それにより2つの次元での違いと関連性が明確になった。 なお,海外共同研究者の由井典子教授とは,日常的なメール交換による連絡に加えて,5度の集中的な研究打合せを行った。
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