研究概要 |
研究期間中に行った,周期係数をもつ二階楕円型微分作用素のグリーン関数の遠方での漸近形に関する結果について述べる.これは,研究課題であるシュレディンガー方程式の基本解の特異性を直接扱ったものではないが,漸近解析また超局所解析の観点からは同じ範疇に入り,ここでの手法は研究課題の遂行に応用されると期待している.2002年の村田實教授との論文において,周期係数二階楕円型微分作用素のグリーン関数の遠方での漸近形をスペクトルパラメータが危値より小さい場合に求め,マルチン境界を決定した.この論文での手法を手がかりに,前年度において村田實教授と共同で,空間次元が2以上の周期係数楕円型作用素が自己共役である場合,連続スペクトルの下端より大きく十分それに近いエネルギーにおいて極限吸収されたグリーン関数の遠方での漸近形を求めた.証明は,ブロッホ変換された微分作用素について準運動量変数がゼロ付近のときの第一固有値の挙動とゼロ点の様子を調べ,解析的フレドホルム定理と留数定理により主要項を抜き出し,停留位相法によって漸近展開を得る,という方法である.今年度はこの方法の改良を行い,被積分関数に(x+i0)^<-1>を含む積分の漸近形を直接計算することで大変簡略化された証明法となった.更にその応用として,極限吸収原理の成立が他の方法(ムールの方法など)と比較して,簡単に証明された.これに関する今後の課題として,次元が1の周期係数微分作用素について,スペクトルのバンドの端点を除くすべてのエネルギーにおいてグリーン関数を表示することを目指し,研究中である.
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