研究概要 |
力学系理論は,双曲性と構造安定性という2つの概念を基礎として研究が始まり,「構造安定性と双曲性は同値」というC^r-構造安定性予想(r≧1)解決へ向けての研究がその発展に大きな役割を果たした.C^1-位相に関する構造安定性予想は,1987年にManeによって解決されたがr≧2の場合は未解決である.C^1-構造安定性予想の証明において基本的かつ本質的な働きをしていたものにFranks補題がある.同補題はC^1-位相に関してのみ成立しC^2以上については成立しないため,現時点ではC^r-構造安定性(r≧2)から双曲性は導かれていない. 本研究の目的は,擬軌道尾行性(shadowing property)とPesin理論の融合を図ることにより,擬軌道尾行性-C^r-開条件(r≧2)から双曲性を導き,さらにその研究過程で得られた手法・成果を利用することにより,将来的にはC^r-構造安定性予想(r≧2)の解決を図ろうというものであった.平成15年度は研究対象を閉曲面上の力学系に限り,擬軌道尾行性-C^r-開条件(r≧2)の下で力学系の双曲性を導くことに主眼を置いた.平成16年度においても引き続き双曲性の証明に挑戦したが現時点で論文として発表に値する成果は得られていない.しかし,部分的に得られた成果の高次元化についてはその見通しが得られ,全体的に見れば本研究目的の50%は達成できたと言える. 周期点の双曲性は,力学系の双曲性を示す上で基礎となる.擬軌道尾行性-C^r-開条件(r≧2)のもと,力学系のすべての周期点が双曲的であること,それらの安定多様体・不安定多様体が横断的に交わること等々が研究代表者自身によって証明されており,2次元多様体上で占有的分解の存在と周期点が非遊走集合の中で稠密であることを仮定すればC^2-構造安定性から双曲性が証明できる,さらに今回の研究を通し,高次元の場合についてもこれと同様な結果が証明できることが判明した.本研究を推進して行くための土台は完成しており,本研究で部分的に得られた成果の更なる発展に向け引き続き鋭意努力していく予定である.
|