研究概要 |
本研究の目的は,8頂点模型やSOS模型に代表される楕円量子可積分系を解析することである.楕円量子可積分系の難しさは電荷保存性という性質を持たないため量子頂点作用素の方法を直接適用するの点にある. 平成15年度〜16年度にかけて,桑野は,楕円量子可積分系を規定する重要な物理量として,形状因子を考察した.8頂点模型の形状因子を構成するための準備として,サイクリックSOS模型の形状因子の積分表示を構成した.この表示は,Smirnovの公理をみたすように構成された.得られた積分表示は,レベル0のKnizhnik-Zamolodchikov方程式の解であることも示した. さらに桑野はMichael Lashkevichと共同で,平成16年度〜17年度にかけて,無反射点直上におけるXYZ模型の4点形状因子が,無反射点直上であるが故に簡単化し,本質的に積分無しのテータ函数の和として書けることを示した. 平成15年度〜16年度にかけて,中屋敷は,SU(2)不変Thirring模型の局所作用素の空間を考察した.これに関してまず形状因子がミニマルであるための十分条件を見つけそれを用いて局所作用素の空間の指標を計算した.得られた指標はアフィンリー環sl_2ハットのレベル1最高ウェイト表現の指標のフェルミオニック公式として知られているものと一致する.次に局所作用素の空間を保存量のつくる環上の加群と考えた場合の自由分解をフェルミオンのフォック空間を用いて構成した. 平成16年度〜17年度にかけて,中屋敷は,前年度に考えた問題の古典極限に関連して,基本的な多変数のアーベル函数をどんどん微分していって一般のアーベル函数を作りだすことが出来るか,という問題を考察した.超楕円曲線のヤコビ多様体上のアーベル函数についてはこの問題の答えに関して中屋敷とSmirnovによる予想があるが,平成17年度に,この予想を種数3の場合に解決した.
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