研究概要 |
核子間相互作用の理解に加え、ハイペロンと核子の相互作用を明らかにすることは8重項バリオンの物理の理解にとって基本的な問題である。Λハイペロンについては、実験的にも理論的にもかなりのことがわかっているが、Σハイペロンについては原子核における一体ポテンシャルの符号も確定していない。近年、KEKで精度のよい(π^-,K^+)包括反応スペクトルが測定され、Σのポテンシャルが100MeVを超えるほどの斥力であることが示唆された。この研究では、ハイペロン生成に対応する(π^-,K^+)包括反応スペクトルに焦点をしぼり、半古典的歪曲波近似を導入して理論的に計算する定式化を行った。従来は、数値計算の軽減のため原子核内で起こる素過程を平均化する近似が用いられていたが、この定式化では、反応点におけるπ中間子、核子、K中間子、ハイペロンの運動量が保存するという条件を要求し、各点での寄与を積分するという枠組みを用いる。数値計算の結果、KEKで測定された1.2GeV/cのπ中間子による(π^-,K^+)スペクトルの実験データがよく再現されることが確かめられた。その結果から、Σハイペロンの一体ポテンシャルは、大きさが30〜50MeVほどの斥力であるという結論が得られた。重い原子核を標的とする実験データの解析から、Σの一体ポテンシャルのアイソスピン依存性についても情報を得ることができた。これらの性質の決定は、バリオン間相互作用の理論的模型の検証にとって重要な役割を果たす。この解析では、素過程が核媒質中で変化する効果は考えていない。中間状態に表れるバリオン励起状態の質量と幅が核媒質中で変化していることは十分予想され、最終的には、そのことを考慮した上でハイペロンのポテンシャルの強さを考察する必要がある。また、多段階過程の寄与を定量的に評価することも必要である。ここで開発した方法は、そのような核媒質効果や多段階過程の寄与を定量的に議論できるものである。
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