研究概要 |
超高エネルギー宇宙線が大気中で作る空気シャワー中の電子が発する蛍光を、遠く離れた場所に設置した望遠鏡で観測する方法が実施されている。また観測有効面積をより大きくするため、国際宇宙ステーションに望遠鏡を設置し観測するEUSO計画が日、欧、米の共同研究として推進されている。これらの観測で宇宙線のエネルギーを決定するには、大気中での電子の発光効率、大気伝播中での光子数の減衰など、まだ十分に解決されていない問題がある。本研究は (1)大気を模したチェンバー内で、電子発光効率、発光時間の気圧依存性を測定し、これをもとに、種々の波長の線スペクトルに対する発光効率の密度、温度依存性を求めること。 (2)得られた結果をHiResなどの現行実験EUSOなどの衛星からの観測に適用し、伝播途中の蛍光の減衰も考慮しエネルギー決定の系統誤差につき精査すること。 を目的とした。 (1)についての実験は、新しく中心波長325,336,350,373,410,414,418,430nmの干渉フィルターを購入し、全14波長領域で測定をおこなった。乾燥空気20℃,1013hPaで、0.85MeV電子によって励起され放出される300nm〜406nmの蛍光光子数は、1mあたり3.81±0.13である。この結果はAsptroparticle Physics 22(2004)pp235-248で発表した。また2003年12月にドイツにて「第2回宇宙線からの蛍光」についてのワークショップが開催されたが、そこで基調報告を行なった。多くの後続のグループが問題点を認識し、世界中で10グループ以上が、より広範囲に精度をあげて実験をおこなっていることも、本実験の成果である。 (2)については、得られた発光効率を人工的にシミュレートした空気シャワーに適用し、伝播途中での減衰の波長依存性も考慮し、宇宙線エネルギー決定の誤差を推定した。これまで使われてきた値では、宇宙線エネルギーを約10%下方評価していることを指摘し、上記学術誌に発表した。
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