研究概要 |
マクロスケールでの摩擦法則はよく知られた物理法則である。しかし原子スケールでの摩擦力の性質はよく理解されているとは言いがたい.近年,原子間力顕微鏡,表面力測定装置等の新しい実験技術の開発と計算機の進歩によって,ナノトライボロジーと呼ばれる新しい研究分野が発展している.その中で物理吸着の界面摩擦は原子スケールでの摩擦のメカニズムに重要な知見を与えるものとして興味が持たれている. 本研究では,物理吸着膜の摩擦力の性質と,それを決める因子を明らかにすることを目的として,グラファイト基板上のヘリウム吸着膜の界面摩擦を測定した.ヘリウム吸着膜の界面摩擦の測定は,グラファイトを電極に圧着した水晶振動子を作製し,水晶マイクロバランス法を用いた.測定はこれまでの研究に基づき,吸着膜の構造と関係する面密度と吸着膜の滑り速度と関係する振動子の振幅をパラメーターとして界面摩擦の温度変化を測定した.測定の結果,次のことが明らかになった.(1)ヘリウム原子2原子層膜および3原子層膜において低温で摩擦力の減少が観測される.(2)摩擦力が減少する温度は膜の層構造に従がって階段状に変化し,3原子層膜の温度は2原子層より低い.(3)低温での摩擦力の減少は振動子の振幅に依存し,振幅が大きいほうが摩擦力の減少が大きい.(4)低温での低摩擦状態は準安定状態であり,低温で大振幅から低振幅に変化させても低摩擦状態は維持される.これらの現象は,他の吸着膜の測定では知られていないものであり,摩擦力の小さいヘリウム膜で初めて観測された.また,ヘリウム膜の界面摩擦は非粘性摩擦であることが明らかになった.今後の界面摩擦の研究に重要な知見を与えると期待される.
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