研究概要 |
スピン密度波型磁気構造を示す典型物質である金属Crのスピン構造(磁気構造)を,界面効果を利用して制御する研究を行った.バルクのCrは体心立方(bcc)構造をもち,磁気転移温度(T_N=311K)以下で,各原子がもつスピン磁気モーメントの方向がbcc(001)原子面内で平行,隣り合う(001)面間.で反平行で,かつその大きさが6〜8nm程度の周期で正弦波的に変調した「スピン密度波型反強磁性構造」を示す.このような磁気構造をもつCrの(001)配向薄膜中に異種金属元素Xの単原子層が周期的に挿入された構造をもつエピタキシャルCr/X多層膜を作製し,中性子回折法およびメスバウアー分光法を用いてスピン構造を調べた.その結果,界面効果の影響を受けて正弦波的磁気変調の「腹」または「節」が挿入単原子層位置にピン止めされた,バルクCrにはみられない新しいスピン構造が発現することが明らかになった.スピン密度波の波形は挿入元素の種類に依存して変化することが明確に示され,スピン密度波の制御には挿入元素の選択が重要であることが示された.一方,bcc Cr(001)配向の多層膜とbcc Cr(011)配向の多層膜の磁気構造は,Cr層の厚さが同じ場合でも大きく異なることがわかった.これらの結果はネスティング効果と界面効果の競合という考え方で解釈でき,人工的ナノ変調構造の導入によってこの競合効果をうまく引き出し,スピン密度波型磁気構造を制御していくことが可能であることが示された.
|