研究概要 |
本研究では,まず,酸素内殻を利用したスペクトルとして酸素1s内殻共鳴X線発光スペクトル(0 1s RXES)に着目して,電子状態を研究する手法としてのこの分光法の有用性を明らかにした。 固体の局所的な電子状態のみならず,固体内の遍歴的電子,局在的電子に関する情報を抽出することが可能であることを理論計算を通じて示した。例えば,絶縁性の銅酸化物の0 1s RXESにおいては,Zhang-Rice一重項バンドから上部ハバード・バンドへの電子励起に伴う非弾性散乱構造を観測しえることなどを示した。また,0 1s RXESにおける入射光と散乱光との間の強い偏光相関を理論的に明らかにすることにより,電子状態に関するより詳細な情報を得ることが可能であることを予言した。 また,1次元の絶縁性ニッケル酸化物の電子状態を0 1s RXESや0 1s XAS(X線吸収スペクトル)の計算により明らかにした。Ni3d正孔間のフント結合が価電子状態に大きな影響を与えていること示した。また,ニッケル・イオン上の高スピン状態が低スピン状態へ転換される励起が2箇所で同時に起きるという新種の励起の存在を予言した。実際に,この励起を3次元結晶のNiOにおいて観測することに成功した。 さらに,総合的な解析をすることの重要性を指摘する観点から,銅酸化物の銅の2p内殻のX線光電子スペクトル(Cu 2p XPS)や,価電子帯の角度分解光電子スペクトルや銅1s共鳴X線非弾性散乱スペクトル(Cu K RIXS)の計算なども行った。Cu 2p XPSの計算では,その価電子帯の正孔量依存性から,Cu2pXPSの形状と価電子帯スペクトルの間の密接な関係を明らかにし,内殻光電子スペクトルの新たな可能性を開いた。また,Cu K RIXSではCu3d軌道縮退の効果を取り入れた計算をはじめて行い,dd励起が観測されえる機構を明らかにした。また,Cu K RIXSと0 1s RXESとの相補的な関係も明らかにした。
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