研究概要 |
強電磁場中を運動する高エネルギー電子・陽電子からの放射は,結晶中のチャネリング現象から加速器におけるビーム放射,さらにはコンパクト星を中心とした高エネルギー宇宙現象まで,様々なスケールにおいて現れる.強場中においては電子の加速度が極めて大きくなるため,その軌道の詳細を考慮しないと正しい放射の計算はできない. 最近,本研究代表者らは標準軌道の概念を導入することにより,「シンクロトロン近似を超える放射公式」を案出した.この公式はシンクロトロン公式(一様場公式)が1つのパラメタで決まるのに対し,2つのパラメタを持つ.そして,パラメタ値の違いにより,シンクロトロン近似と,その逆の極限である双極子近似を,その両極限に持つ. すなわち,従来は全く異なる理論的取り扱いを必要としたシンクロトロン極限と双極放射極限を,同じ公式で記述できるようになったわけである. 本基盤研究(C)においては,新放射公式から交差対称性を利用して非一様強電磁場中での対生成公式を導いた.新対生成公式は,non-dipoleパラメタが大きい極限では一様場近似に移行し,逆に,小さくなるとBethe-Heitler対生成スペクトルと同様の振る舞いをすることが明らかとなった.次に,その公式の有用性を示すために数値計算を行い,結晶場を利用した光子による対生成実験の結果を定量的に説明することに成功した.一方,放射においては,赤外領域での振る舞いを調べた.その結果,Bethe-Heitler断面積に基づく計算とは根本的に異なり,新放射公式では有限値となることが示された.これは,最近の話題であるLandau-Pomeranchuk効果とも直接関係する重要な発見である.最後に,相補的な現象である結晶中での分極放射についても論じ,チェレンコフ放射,遷移放射,コヒーレント分極放射の統一的な理論体系を示した.
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