研究概要 |
本研究では有極性高分子溶液の広帯域誘電分光(BDS)測定を30GHz〜1μHzの周波数域で行い,液体状態からガラス状態までの誘電緩和を観測し,溶液中の高分子と低分子量分子それぞれのダイナミクスとこれらが互いに及ぼす影響を調べた。 1.PVPアルコール溶液の誘電緩和 ポリビニルピロリドン(PVP)とモノアルコールおよび多価アルコール混合系の25℃におけるBDS測定を行った結果,2GHz〜100MHzの周波数域にアルコールの緩和が,10MHz〜10kHzの周波数域にPVP分子鎖の運動による緩和がそれぞれ観測された。1価アルコールの緩和時間は水素結合密度ρ_Aで決まる事がわかった。一方,多価アルコールの緩和時間はρ_Aでは決定されず,1価アルコールとは異なる要因で緩和時間が決定される。また,PVPの緩和時間τは,PVP濃度とともに増加する。1価アルコール溶液中の無限希釈濃度のτは溶媒の粘性の1.3乗に比例するが,多価アルコール溶液のτは溶媒粘度に比例した。1価のアルコールと多価アルコールの溶液中のτの違いは,溶媒中の高分子の広がりや,高分子と協同的に分子運動を行う溶媒の有無などが原因であると考えられる。 2.EGO水溶液の液体からガラス状態までの誘電緩和 様々な分子量のエチレングリコールオリゴマー(EGO)を用い凍結せずにガラス転移温度まで温度を下げる事のできる65wt%EGO水溶液のBDS測定を10μHz〜10GHzの周波数域128〜298Kの温度範囲で行った。その結果,溶液が液体状態の高温側で観測される誘電損失の対称,非対称性が溶液を構成する2種類の分子の協同運動性と関係し,さらに低温域におけるα,β緩柏の分離機構と密接に関連していることがわかった。
|