研究概要 |
哺乳動物の皮膚角層中の細胞間脂質がとる構造として周期約13nmの長周期ラメラ構造と約6nmの短周期ラメラ構造があることが知られている.われわれはヘアレスマウス角層中の小角X線回折プロファイルの水分量依存性の実験を行い,長周期ラメラ構造の周期は水分の増加とともに不変であるのに対し,短周期ラメラ構造の周期は長くなることを発見した.さらに,長周期ラメラ構造および短周期ラメラ構造による小角X線回折ピーク幅は水分量が少ないときにはともに広く,水分量20-30wt%のとき2つのピークはともに鋭くなり,さらに水分量が増加するとともに再び広くなることを見出した. 次にX線回折の温度依存性の実験を行った.ラメラ構造中の炭化水素鎖の軸と垂直方向には炭化水素鎖の充てん構造として六方晶と斜方晶の構造が報告されている.ラメラ構造と炭化水素鎖の充てん構造の間には関係があるはずで,この関係を明らかにすることが細胞間脂質の分子レベルで機能発現機構を研究するうえで重要である.先ず,皮膚角層の熱測定により相転移の振舞を明らかにし,X線の小角広角同時回折の温度変化を測定して各相転移温度における構造変化を解析することによって,ラメラ構造と炭化水素鎖の充てん構造の対応関係を明らかにすることを目指した.その結果,長周期ラメラ構造の炭化水素鎖の充てん構造は六方晶であり,短周期ラメラ構造の炭化水素鎖の充てん構造は斜方晶であることを明らかにした.すなわち,皮膚角層中の細胞間脂質は長周期ラメラ構造・六方晶と短周期ラメラ構造・斜方晶の2つのドメインから成っていることが分かった.
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