研究概要 |
内核の異方性速度構造を内核モードのスプリティング関数の展開係数を用いて推定した。自転軸方向に伝わるP波の速度が赤道面上を伝わる速度よりも早く,その速度差εの平均値は1.73%であることが分かった。εが深さに依存して変化すると仮定すると,εは内核の表面から230kmの深さまで深さとともに減少し,それ以深では増大する変化を示した。得られた内核異方性速度構造を用いて,内核の地震波異方性とその分布が地球振動スペクトルに及ぼす影響を調べた。一般に内核に閉じ込められる歪エネルギーが大きくないので,異方性の分布の違いによる内核モードのスペクトルの変化は大きくない。従って,内核の全体が異方性を持つ場合と東半球が異方性を持つ場合の違いを,スペクトルから判断することは困難であるといえる。内核が自転軸の周りに差動回転している場合のスペクトル変化については,六方対称軸が自転軸に対して傾いている場合だけに変化が現れ,対称軸が自転軸と平行な場合は,スペクトルに変化が現れなかった。この場合のスペクトルの変化も,内核に励起される歪エネルギーが小さい場合には,大変小さいことが分かった。地球振動のスプリティング関数の見積もりには多くの観測点で得られた地震記録を用いるので,内核差動回転によるスペクトルの系統的な変化が検出できると考えられる。実際,地球振動スペクトルの逆解析によって得られるスプリティング関数の時間変化から内核差動回転の検出ができることを数値実験によって確認した。そこで,実際の記録を解析して内核モードのスプリティング関数を見積もった。スプリティング関数は内核異方性だけでなく不均質マントルの影響も受けるので,その影響を補正したスプリティング関数を用いて差動回転の検出を行った。その結果,内核の差動回転速度は西向きに0.03±0.18°/年であると見積もられた。この速度は大変小さいので,内核は差動回転せず,マントルに重力的に閉じ込められていると結論付けた。
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