研究概要 |
西部北太平洋等に見られる黒潮続流水温前線や亜寒帯水温前線では大気の変形半径スケールより小さい数百km程度の空間スケールで水温が大きく変化する.このような中緯度における水温変化に対し大気がどのような変調を受けるかについて,熱帯域における現象と対比させながら,大気下層の安定度,大気下層における温度・水蒸気・運動量について総合的な解析を行った. 黒潮続流,マルビーナス海流,南極前線等の相対的に暖かい水温を持つ海域では海洋からの熱放出により海面付近では大気の鉛直方向の安定度が低下し,1000-1500mまで惑星境界層が発達する.この発達に伴い境界層内では熱・運動量の混合が活発になるため,海上風が増加していることが示された.中緯度の大気海洋間交換過程において,高風速が潜熱放出を促し水温を低下させるという大気から海洋の作用がこれまでの研究において主に捉えられてきていたが,本研究の解析はこれとは逆の海洋から大気への影響があることを指摘した.このような境界層の変質は鉛直積分として海面気圧の分布にはあまり寄与せず,地衡風調節は少なくとも中緯度では示されていない.むしろ,水温分布は,大気下層の南北気温傾度の変化すなわち傾圧性の変化には影響し,総観規模の高低気圧の変調にまで海洋の効果が及ぶことが示唆された.総観規模における変調はアリューシャン低気圧の変動にも関わるため,黒潮続流海域における長期的な水温変動は冬季東アジアモンスーンにも影響を与える可能性がある.現在の大気大循環モデル等では,水温前線や惑星境界層の表現は必ずしも十分でなく,これらの改善の必要性を指摘した.
|