研究概要 |
凍結した摩周湖(摩周カルデラ)の湖上における重力異常観測から,このカルデラがスリバチ型の低重力異常をもついわゆる「funnel caldera」であることが明らかとなった。 観測点数は,研究代表者の所有する既存点データ148点,2003〜04年観測の新規55点に,(横山,1970)より引用した28点の合計231点である。地形補正・ブーゲー補正・大気補正は,すべての観測点について再計算した。重力基準点は,北海道大学に設置されているFGS(980.477549gal)である。重力観測の位置決定については,2台の携帯型GPSによるディファレンシャル観測を行なった。摩周カルデラ周辺は,上空の見晴らしがよいことが幸いして,常時8〜9台の衛星を捕捉できた。これにより,標高の精度を0.5〜1.7mの精度で観測できた。この標高精度ならば,重力異常の観測精度は0.1〜0.3mgalとなり,カルデラの重力異常を議論するには十分な精度といえる。したがって,高価で観測に時間のかかる測量用リアルタイム干渉測位GPSを用いずとも,安価な携帯GPSを重力異常観測に使用することができることが判明した。 この場合の地形補正計算では,湖水の密度は岩石の密度2.67g/cm^3に置き換えられている。というのは,地形補正計算に用いた地形データが国土地理院発行数値地図(50mグリッド)のDEM(digital elevation map)に依っていて,このDEMには湖水深データが含まれていないからである。 湖水の影響を見積もるには,湖水深のデジタルデータが必要である。湖底地形はデジタル化されていないため,国土地理院発行湖沼図「摩周湖」の等水深線をデジタイザでトレースし,コンピュータでグリッド化して湖水深のDEMを作成した。これを用いて湖水の影響も含めた地形補正を行なったところ,摩周カルデラの低重力異常は消えてしまう。つまり,摩周カルデラの低重力異常は,火砕物やfallbackなどのカルデラ埋積物ではなく,ほとんどが湖水に起因していたことになる。 したがって,摩周湖底がカルデラ底そのものであり,摩周カルデラは,水以外のcaldera infillが存在しない「空の」カルデラということになる。そして,摩周湖底は明らかに平底型なので,摩周カルデラをfunnel calderaと呼ぶのは無理があることになる。
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