研究概要 |
本研究課題を行うため,網走湖・阿蘇海・浦ノ内湾・能取湖・中海・宍道湖について水質・底質調査を行った.汽水域の特徴は,塩分躍層あるいは塩分勾配によって上下混合が起こりにくい環境であるということである.そのため,底層の水塊の移流は,主に海側から淡水の流入側の水平方向に起こる.底層水は,表層水と混合し,表層水の流れによって排出される.表層水と底層水の流人方向は基本的に逆方向である.そのため,2つの流れの境界では,弱い混合が起こる.さらに潮汐作用で川方向に押されることにより,水塊.の末端では湧昇が起こり,混合が起こりやすくなる.そのため,中海や網走湖などでは,栄養塩の豊富な底層水と表層水が混合することによって高い生産が維持されている.この底層水循環の駆動力は,河川からの水流,風による混合作用,潮汐作用などである.このような底層水循環に対して底質は,底層水が酸化的な環境を示す入り口側から無酸素状態を示す末端までほぼ連続的に移行するため,酸化層の厚い堆積物から還元層しか見られない堆積物に連続的に変わる.底質の有機物の面で考えると,より分解されやすい環境に堆積する入り口側では,TOC濃度は低く,分解されにくい環境に堆積する末端側では,TOC濃度が高いことになる.さらに末端側は,塩分躍層付近に高生炭層もあるため,底層水塊の入り口側と末端側ではTOC濃度に極端に差ができることになる. さらに底質環境の汽水湖間の違いは,循環速度によってもたらされる.底層水の滞留時間の短い湖沼では,貧酸素状態までであるが,網走湖のような滞留時間の長い湖沼ではほぼ全域が無酸素状態になる.それらを規制するものは,入り口から末端までの距離と底層水の移流速度であり,移流速度は密度流のエネルギー,流入量,潮汐作用,風による混合作用,河川水の流入量に関連する.
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