研究概要 |
小出(1955)が定義した<破砕帯地すべり>は<破砕帯>を地質素因とする地すべり性崩壊である.地すべり移動体は発生と同時に分解し,石礫の集合体となって斜面を下降し,しばしば河川に突っ込んで天然ダムをつくる.小出(1955)が定義した<破砕帯>は岩石がテクトニックな作用で破砕された領域で,光沢のある鏡肌の発達した剪断面群で特徴づけられる.ただし,断層粘土や断層角礫など断層ガウジからなる断層そのものは破砕帯と呼ぶ資格はないと,小出は言い切っている.小出が認定・命名した<破砕帯>の多くは大断層帯から離れて付加体の中を走っている.<破砕帯>の認定基準を満たしている破砕性岩石は破砕性蛇紋岩・破砕性緑色岩・鱗片状劈開の発達した泥質メランジュである. 三波川帯は破砕帯地すべりのメッカと言われてきたが,大部分の地すべりは,徐動性地すべりであって,地すべり性崩壊の特徴をもつ破砕帯地すべりではなかった.小出によって三波川帯で認定された吉野川-紀ノ川破砕帯と御荷鉾破砕帯や中部四万十帯で認定された大井川-安倍川破砕帯にはテクトニックな作用で形成された破砕性岩石は発達していない.小出は,岩盤クリープ性傾動構造がつくる破砕性構造を誤って<破砕帯>して認定したと可能性が高い.しかし,岩盤クリープ性傾動構造から進展する地すべり崩壊の存在を把握していた点は小出の卓見である. 徳島県那賀町阿津江において2004年台風10号の豪雨で発生した大規模崩壊は破砕性緑色岩を素因とする典型的な<破砕帯地すべり>であることを明らかにした.
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