研究概要 |
深海底の鉄・マンガンクラストは重要な鉱物資源として注目されるとともに,地質時代に沈積した化学堆積岩として長レンジの古海洋環境の記録物としての可能性が指摘されている.しかし,精密年代測定法が確立されおらずまた微細スケールの記載が少ないため,環境記録としての有効性が検証されていない.本研究では,北西〜南西太平洋の広範な地質環境に分布し1000万年を超える成長史をもつクラスト試料を選定し,顕微鏡下での微細記載(構造,鉱物,化学)を踏まえて各試料の"微細層序"を解読し,これらの時間的・空間的対比を試みた結果,一部で極めて明瞭な対応関係が認められることが明らかとなった.これは過去の海洋における環境の水平的均質性・連続性を示すとともに,同時に浅海域と深海域における大きな環境の違いを反映していることも明らかとなった. 次に環境復元の大きな課題となっている高精度年代測定法の開発を試みた.残留磁化による年代測定を実施した結果と既知の放射性同位体年代測定値とを比較した結果,概ね良い対応を得た.但し最適の対応が絶対値である保証は無いため,78万年前の最新の地磁気反転イベントを超伝導磁力計SQUDにて識別する方法を考案した.最終年度には高解像度測定用試料を完成し測定を開始した(2005年6月に米国カリフォルニア工科大学において測定予定).以上に加えて,化石層序等を併せて複数の年代測定値クロスチェックにより,微細層序の時間対比が可能となり,クラストによる古海洋環境復元の有効性が検証され今後の研究展望が大きく開けた.また研究期間中に残留磁化獲得機構についての基礎的実験・観測も実施し,熱消磁の過程などにおいて磁化を担う鉱物に関する重要な情報が得られた.
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