研究概要 |
本研究は,外洋との海水の交換が制限された,半閉鎖的な縁海である日本海の古環境,とくに後期中新世の古環境の復元を主題として進められた.日本海の深海掘削コアや日本海側の中新統の放散虫群集と,三陸沖太平洋の深海掘削コアの放散虫群集との比較を行ったわけであるが,本研究の当初に計画していた後期中新世(約1200〜500万年前)の範囲を超えて,現在に至るまでの日本海の放散虫群集の長期的データを蓄えるとともに,放散虫ならではの群集変遷史・古環境変遷史を示すことができた.日本海の放散虫群集は過去1200万年間を通じて,常に太平洋側よりも多様度が低かった.これは現在の日本海の特徴に通じる性質であり,日本海の海洋環境の特殊性が後期中新世までさかのぼることが明らかになった。その一方で,短期的な温暖化のタイミングが日本海と三陸沖で一致する場合があり,地域間の共通性も認められた.約1200〜700万年前については比較的多くのサンプルを検討できたが,過去500万年間については深海掘削コアの回収率が悪く時間解像度が低いため,よりよい試料を入手して,分析を追加してゆく必要性があり,今後の課題といえる. 一方,新潟県,長野県,千葉県,北海道などにおける調査により,各地の中新統・鮮新統の年代論にいくつかの画期的な成果をもたらすことができた.そのひとつは長野県戸隠地域の研究成果であるが,そのほか新潟県と北海道についても膨大なデータが収集され,その結果は従来の地層の年代論・地層区分に改訂を迫るほどの内容があり,鋭意論文化に努めてゆきたい.しかし,裏を返せば,年代論が解決されなければ,その先の群集解析・古環境解析を実施するには及ばないことを意味しているのであって,早急な究明が待たれる.
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