研究概要 |
沈み込み帯の火成活動に水は重要な役割を果たしている.地球内部についてはトモグラフィーにより詳細な構造が決定されており,実験室で含水量を変化させた岩石試料の弾性波速度とQ値を決定すれば,定量的に含水量を見積もることができる.そこで蛇紋岩,花崗岩およびパイロフィライトについて,ドライとウェットな状態で,透過波と反射波の観察からトラベルタイムを正確に測定し,試料に固有の弾性波速度を精度良く決定した.ウェットな試料の重量変化から岩石の含水量も決定した.含水量の増加に伴い弾性波にダイナミックな変化が認められ,速度も振幅も共に低下した.得られた測定値は,水と岩石の複合体について,Voigt平均という計算手法により見積もられる値と一致し,速度低下が岩石中にしみこんだ水に起因していることを裏付けた.含水試料の波形の振幅変化からQ値も同時に決定できるので,水の存在が地震波の減衰に及ぼす影響についても定量的に評価することが可能である.数%までの水によりQ値は数倍変化することがあり,地球内部流体層の検出にQ値が有効であることを示した. 本研究ではまた,1GPaで角閃岩についてソリダスを超える温度まで測定し,部分溶融による速度とQ値の急激な低下を認めた.数%の部分溶融により速度は6.17km/s,Q値は15と低く,溶融量の増加に伴い速度は5.90km/s,Q値は7と小さい.角閃岩についてこのような高温高圧でQ値を測定した例はなく,本研究は先駆的なものである.角閃岩は下部地殻の主要な岩石であり,今回の測定結果より,火山下の下部地殻低速度・低Q値の要因は,角閃岩の部分溶融によるものであると考えられる.特に火山活動が活発な地域の顕著な低速度層に,数%の部分溶融の存在が示唆される,世界各地の下部地殻低速度・低Q値について,温度と溶融量を見積もる際に本研究結果が適用可能である.
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