研究概要 |
1.炭素三重結合ユニット2つで繋がれたβ-ジケトナトルテニウム(III)複核錯体のターミナル配位子を変えたモデル化合物について,5種類の酸化状態,即ちRu(II)-Ru(II),Ru(III)-Ru(II),Ru(III)-Ru(III),Ru(IV)-Ru(III),Ru(IV)-Ru(IV)について,密度汎関数法(ADFプログラム,PW91+tzp)によりC_1対称として構造最適化を行った。 2.構造最適化に成功した化学種について,時間依存密度汎関数法(Gaussian98プログラム,B3PW91+6-31G(d)(C, O, H); LANL2DZ(Ru))により励起エネルギーの計算を行った。その結果,Ru(IV)-Ru(III)混合原子価状態で非常に強い吸収を示した5800cm^<-1>付近の原子価間遷移(IVCT)と考えられるバンドは,金属から架橋配位子へのMLCTバンドと二つの金属間のMMCTバンドからなることが明らかになった。 3.低温での分光電気化学測定用セルを製作し,223Kで紫外・可視・近赤外領域の測定を行った結果,ジクロロメタン溶液中,C_6及びC_8で繋がれたβ-ジケトナトルテニウム(III)複核錯体の一電子酸化体は,C_4で繋がれた複核錯体と同様,近赤外領域に原子価間遷移(IVCT)帯を示した。三重結合の数が増すにつれて,その吸収極大波数は高波数側へシフトし,吸収強度は減少した。 4.C_4で繋がれた複核錯体の磁化率の温度依存性を調べた結果,ルテニウム金属のスピン間に反強磁性相互作用があり,この錯体の基底状態は一重項状態であることがわかった。 5.スペーサーを全く含まないテトラアセチルエタネート(ビスアセチルアセトネート)で架橋したルテニウム(III)複核を数種類合成した。分光電気化学測定によりこれらの一電子酸化体の近赤外領域の吸収を調べたが,IVCT帯を検出することはできなかった。
|